葛尾村野行(のゆき)地区の特定復興再生拠点区域(復興拠点)で30日に始まった準備宿泊では、東京都に避難する内藤一男さん(64)、光子さん(63)夫妻が同日午前、早速自宅に戻り、片付けを始めた。東京電力福島第1原発事故直前に新築した自宅で、2人は「野行に暮らすことは、私たち夫婦の11年越しの夢。避難指示が解除される来年春から、ここに住もう」と思いを強くした。
野行地区は光子さんの古里だ。東京都出身の内藤さんは、上京していた光子さんと出会い、結婚した。2人は長年、都内で生活していたが、内藤さんが野行の豊かな自然や、地域の人々の顔が見える田舎暮らしに魅せられ「退職後は野行で暮らそう」と決めていた。
内藤さんは2010年秋に光子さんの実家に新しい自宅を新築し、東京から夫妻そろって移り住もうとしていた。その矢先、震災と原発事故が起きた。長期の避難指示で、2人の夢は何度も崩れかけた。しかし、地震の被害がなかった自宅を解体するという決断には至らなかった。「野行に家があることが心の支えだった」。2人は震災後、2カ月に1度の頻度で一時帰宅し、自宅の掃除を続けてきた。
やがて除染が進み、野行で生活できる環境が整ってきたことから、2人は準備宿泊への参加を決めた。震災から約10年8カ月。近所にあった家は解体され、避難指示解除後の帰還者はたった数世帯と見込まれている。
寂しい思いはするが、内藤さんは「仲良くしている妻の親戚は県内におり、心はつながっている。コロナ禍で学んだオンラインなど人とのつながり方もある」と前を向く。
光子さんにとっては、集団就職で実家を離れてから約50年ぶりとなる古里での生活。近くの川で水遊びした子どもの頃の楽しい記憶がよみがえってくるといい、光子さんは「どんな鳥が飛んでいるのか、川にはどんな魚が泳いでいるのか。そんなことを考えながら近所を歩いたりして、夫と仲良く過ごしていきたい」と語った。(渡辺晃平)
11年越し「田舎暮らし」 前向く60代夫婦、葛尾で準備宿泊開始 - 福島民友
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