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Friday, April 2, 2021

150年前に栄一が提唱していた、「ステークホルダー資本主義」 - 日経ビジネスオンライン

現代において、「論語と算盤」は実践できるのか。目指すべき「中庸」とは、足して2で割った真ん中ではなく、ほどよい「急所」である。なぜ、アメリカは株主第一主義からステークホルダー第一主義へと転換しようとしているのか――。渋沢家五代目子孫で、『渋沢栄一100の訓言』『渋沢栄一100の金言』(いずれも日経ビジネス人文庫)の著者である渋澤健氏と、『「論語と算盤」と現代の経営』(日本経済新聞出版)の編者である守屋淳氏が、渋沢栄一の教えを今によみがえらせる対談の続編。

13%が変われば世界は動いていく

守屋淳氏(以下、守屋):近代国家の誕生には、仮想敵や敵国が必要だといわれていて、日本の場合はロシアでした。だから『坂の上の雲』や『青天を衝け』のように、1つにまとまって、上を向いてみんなで進もうとなったんだと思います。

 今はそうした大目標がありません。SDGs(持続可能な開発目標)がそうなればいいな、とも思うのですが、各論の段階になると、いろいろと難しいですね。

渋澤健氏(以下、渋澤):共通の敵があると目線を合わせやすいということを考えれば、今回の新型コロナウイルスは人類共通の脅威です。もちろん社会構成や国の対応の仕方によって、感染者数や死者数が大きく異なります。一方で、どの国であろうが、どんな肌の色であろうが、金持ちだろうが貧乏人だろうが、感染してしまうのは同じです。

 感染症は自分一人だけが助かったとしても、みんなが感染し、社会が止まってしまうと、誰もが何もできなくなるということを実感したと思います。

守屋:栄一は『論語と算盤』の最後の部分で、「成功とか失敗は身に残された糟粕(そうはく)である」と言っています。例えばSDGsを心の底から本気で信じ、全部の目標は達成できなかったにせよ、一部の達成に貢献できたら、その姿こそ価値があると考える。そうでないと、結局は他人や自分の過去と比較をしたり、限られたパイの奪い合いになったりしかねません。本気でSDGsのような目標を達成しなければならないと思えた時、栄一の考え方は受け入れられやすくなると思います。

渋澤:守屋さんたちと2004年に「プロジェクト13%」という勉強会とイベントを立ち上げましたが、背景には12~13%の普及率によって新しい大きな動きが生じるといわれる、ティッピングポイントへの着眼があります。SDGsについてすべての人が賛成するまでには至っていませんが、13%になるレベルまでになれば、SDGsは当たり前の世の中になっているという期待があります。

守屋:栄一が最初会社を立ち上げた時も、きっと同じだったと思います。銀行なんて誰も知らないし、株式会社なんてよく分からないというところから始まり、5年、10年、耐えに耐えました。次第に成果が上がると、みんなが集まるようになって、ようやく近代的な実業界ができ上がっていきました。

「論語と算盤」の実践は難しいのか

守屋:「論語と算盤」のバランスをとるのは、とても難しいことだと思います。「論語」のほうを頑張ってやればやるほど、「算盤」だけでもうけようとする人間のつけ入る隙が広がる気もします。ここはどう考えたらいいのでしょうか。

渋澤:社会全体を考えてみた時、そういう人たちはごく一部です。ウイルスのようにどんどん広まってしまうと、社会としては問題ですが、一部に抑え込むことができていれば、社会全体としては問題ない。あくどい人をすべて社会からなくしましょうというのは、無理だと思います。

渋澤健(しぶさわ・けん)氏
シブサワ・アンド・カンパニー株式会社代表取締役

1961年生まれ。1987年UCLA大学でMBA取得。JPモルガン、ゴールドマン・サックス等を経て、米ヘッジファンド、ムーア・キャピタルの日本代表に就任。2001年に独立、シブサワ・アンド・カンパニー設立。2008年コモンズ投信を設立し、取締役会長に就任。経済同友会幹事、他。日本における資本主義の父と呼ばれる渋沢栄一は、祖父の祖父にあたる。著書に『渋沢栄一100の訓言』『渋沢栄一100の金言』(日経ビジネス人文庫)ほか多数。

守屋:金融市場では高収益を上げている企業が評価され、少ししか収益を上げられない企業は評価されなかったりします。そうなると、あくどいことをやっても高収益を上げたほうが勝ち、というようにはなりませんか。

渋澤:短期ではそうかもしれませんが、長続きしないでしょう。『論語と算盤』は算盤を否定していないし、論語のために算盤を犠牲にしなさいとも書いていません。「中庸」を目指せと言っています。

 守屋さんから教わったのですが、「中庸」というと、足して2で割った真ん中をイメージしますが、そうではないんですよね。

守屋:「中庸」とは、全体の中のほどよい「急所」を意味します。「急所」は常に変わっていくものです。今までは0と100の間の50が急所だったかもしれないが、ある時には、100のところが急所かもしれないし、0が急所になるかもしれない。

渋澤:僕の理解は、「中庸」とは必ずしも真ん中ではないが、ベストの場所に自分を置きなさいということです。それは、平面上に「論語」の軸、「算盤」の軸を置いて、同じ次元のどこかにベストの場所を探すのではなく、ピラミッドの頂点から見下ろすような3次元にベストのポジションがあると考える。

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