山肌一面に桜が咲き誇り、「一目千本（ひとめせんぼん）」とも称される桜の名所・吉野山を安心して訪れてもらおうと、地元の奈良県吉野町が、備蓄する抗原検査キットの一部を同町を訪れる花見バスツアーの客に提供することを決めた。全国で桜の開花の一報が相次ぐ中、満開シーズンを前に、感染防止対策の徹底をアピール。町を挙げてコロナ下での安全な観光スタイルを提案する。（田中一毅、前原彩希）
抗原検査キットを組み込んだツアーは、４月２日と７日、同町の観光振興に取り組む一般社団法人「吉野ビジターズビューロー」と協力して試験的に実施する。大阪・難波の大阪シティエアターミナル（ＯＣＡＴ）からバスで同町吉野山にある如意輪寺に向かい、同寺で花見と特製弁当を堪能するプランだ。
検査キットは、町が感染拡大防止のため、災害時の避難所や高齢者施設での使用を主な目的に国の臨時交付金を活用して約１２００万円で購入。現在約４千人分を確保している。
町によると、ツアーの定員は各日２０人で、乗客は乗車前の集合場所でキットによる抗原検査を受ける。キットは１月に厚生労働省から薬事承認されたもので、結果は１５分ほどで出る。町の担当者は「事前に検査することで、客に安心感を持ってもらいたい」と話す。
集合場所には町職員も待機。万が一、陽性になった場合はツアーへの参加は断念してもらい、ＰＣＲ検査を受けられる近くの病院まで付き添うという。
シーズン前に危機感
手厚いツアーの背景には、桜のシーズンを前にした危機感がある。
約３万本の桜が山麓から山上に向かって咲き乱れる吉野山は、例年団体客を乗せた観光バスが約２千台も訪れる一大花見スポットだ。しかし、昨春は感染拡大により、花見ツアーのキャンセルが相次ぎ、わずか３０台余りと激減。電車や個人客も少なく、同法人の担当者は「飲食や土産物の売り上げは例年の１０分の１程度だった」と嘆く。
そこで、移動中の不安を少しでも解消しようと、同法人が町側に検査付きのプランを提案。町も「観光振興につながるなら」とキットの無償提供に応じた。
中井章太町長は１６日、「全国の観光地は非常に苦しい状況。これからの新たな観光モデルになれば」と話した。同法人の担当者は「好評であれば第２弾、第３弾も考えたい。感染対策を行った上で、多くの人に吉野を訪れてほしい」と話している。
コロナで苦境のツアーバス 安全アピール
新型コロナウイルスの影響で団体バス旅行を控える動きが広がり、バス業界は苦境に立たされている。各旅行会社やバス会社は、安全なバスツアー実施に向け、換気や消毒の徹底、食事の禁止などの対策強化に知恵を絞る。感染の有無を直前に検査できるツアーはこれまで、あまり多くなかったという。
昨年１月、人から人への二次感染が初確認されたのは中国・武漢からのツアー客を乗せたバスの運転手で、乗車時間の長いバスツアーは、対策をしなければ「密」状態になりやすいとされた。昨年１０月には北海道周遊のバスツアー、同１１月には群馬県内にフルーツ狩りに行ったバスツアーでクラスター（感染者集団）の発生が判明。添乗員が乗客の不調を見逃したケースもあった。
業界では、バスツアーでの感染防止に取り組み、乗車前の体調チェックや換気、消毒の徹底といった対策を強化。バス車内ではマスクの着用を義務づけ、水分補給以外の飲食を禁止するなどの措置も取る。
奈良市のバス会社「奈良交通」では、ツアーや修学旅行の激減により令和２年度の観光バスの売り上げが前年度と比べ７割程度減る見込みだ。少しでも乗客の不安を解消しようと、１人につき２席分のスペースを確保するほか、約５分で車内の空気を入れ替える換気システムを活用するなど対策を徹底している。
２千以上の事業者が加入する公益社団法人「日本バス協会」も、ホームページにバスの換気性能の高さを示す動画をアップし、「対策をとればバスは安全な乗り物だ」と強調している。
シーズン前に危機感…花見バスが乗車前に抗原検査 安全な観光スタイルを提案 - SankeiBiz
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