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Friday, March 12, 2021

「前進、前心」並走続ける - 読売新聞

 あの日、東京のテレビ局で収録してたんですわ。ものすごい揺れがきて、阪神大震災のことを思い出しました。ただごとやないって。

 《1995年の阪神大震災時は、兵庫県宝塚市で被災。自宅が全壊し、家族とともに中学校の体育館で避難生活を余儀なくされた》

 なんとか家の外に出たら、「助けて」という叫び声があっちこっちから聞こえてきて、無我夢中で救助活動に加わりました。明るくなったら、軒並み家がつぶれていて、背筋が寒くなりました。

 避難所で身を寄せ合っていた時は、食べ物もなく、生きることに必死でした。そやから、東日本大震災の後も、すぐ現地に行くのではなく、落ち着いてきた頃にできることを考えました。

 《岩手、宮城、福島の3県を縦断する「RUN FORWARD KANPEI みちのくマラソン」を企画し、岩手県山田町を出発したのは2012年8月13日。福島県いわき市まで9日間、440キロを走り抜いた》

 仮設住宅で暮らす人が増えていた一方で、全国的には記憶が風化し始めてるんちゃうかなという時期。笑顔を届けに走ることで、被災地の現状が報じられたら、と思いました。

 骨組みだけ残るホテルが見えたかと思うと、がれきが積まれたままの地域も。「この辺りが陸前高田の街でした」と言われた時には絶句しました。一面、何もない空き地なんですから。一部区間は、地元ランナーと一緒に走って交流。復興に向け頑張ってる人や、苦しみを背負い続けてる人の存在を肌で感じました。

 毎夏、走るたびに新しい建物が増え、草むらだった場所には商店ができました。仮設住宅は400か所ほど訪ねたかな。話を聴くだけでは自分が来た意味があらへんから、ギャグで笑わせますねん。「我が子が津波にさらわれた」と涙していた夫婦が、数年後に生まれた赤ちゃんを見せに来てくれたり、毎年、うどんを作ってもてなしてくれるグループがいたり。

 「家族も家も流され、もう死んでしまいたい」って嘆いていた70歳代のおばちゃんには、「来年も来るから、絶対、生きときや」って声かけて帰ったら、翌年、「待ってたよー」って笑顔で迎えてくれてホッとしましたね。

 《「みちのくマラソン」は9回を数え、芸人らとたすきをつなぎながら延べ約50日、計約6000キロを走破。13年からは被災地支援を掲げた「淀川寛平マラソン」を続けるなど、大阪でも息の長い活動に取り組んでいる》

 10回目を迎えるみちのくマラソンは、今年で一応の区切りかなとも考えてますが、顔見知りも増え、東北は第二のふるさとのような存在。災害の爪痕は見えにくくなりつつあるけど、心の復興はまだまだやと感じます。26年前の悪夢から立ち上がってきた道のりを忘れず、「前進、前心」の気持ちで次の10年も一緒に乗り越えていきたいですね。(聞き手・渋谷聖都子)

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