10年前の2011年3月11日、東日本大震災による福島第一原発の事故が発生しました。その際、原子炉を冷却することが急務でしたがその作業の影に中国製のポンプ車の活躍があったことはあまり知られていません。当時の様子や10年経った現在の状況を関係各所に取材をおこない、いま振り返ります。
3.11後、原発冷却のために、コンクリートポンプ車を中国から緊急輸入
2011年3月11日に発生した東日本大震災による福島第一原発の事故において被害をこれ以上拡大させないために、原子炉を冷却することが急務でした。
その際、1台の中国製ポンプ車が活躍していたといいますが、どのような事情があったのでしょうか。
当時、東京電力や日本政府は、原子炉を冷却するためにさまざまな方法を模索し、ヘリコプターからの散水や消防車を使った放水など試みたもののいずれもうまくいきませんでした。
ヘリは被爆を極力避けるために、かなり高い位置からの散水となり風に流されるなどしてほぼ効果なし。消防車は高さがまったく足りずこちらも効果なし。
そこで、長いブームを持つコンクリートポンプ車による注水という方法が提案されました。
コンクリートポンプ車とは一般的な大型トラックのシャーシにコンクリート圧送のためのポンプと、コンクリートを高所に送るための配管がついた折りたたみ式ブームを有する建設機械のことです。
もともとは高層ビルなどを建設する際に液状のコンクリートをポンプで流し込むための機械ですから、「コンクリートよりも軽い水を高所まで圧送して注水できるのでは?」と考えられたのです。
消防車やヘリを使うよりは効果が見込めましたが、ひとつ大きな問題がありました。
それは、車両総重量の上限が25トンという道路運送車両法や限界角度などの規制に関係したことで、ブームの長さが最大でも36mに制限されており、原発の注水作業に使える60m級のポンプ車は日本には存在していなかったのです。
そして、世界中を探し回った結果、中国・三一重工という建機メーカーが製造する長さ62mのブームを持つコンクリートポンプ車が見つかりました。
しかも、非常に性能が良いポンプ車で、2キロ離れたところからの遠隔操作も可能というものでした。
東電はすぐに、三一重工の日本法人を通じて、中国・三一重工に購入したいことを伝えましたが、三一重工社長の梁穏根(りょう・おんこん)氏からは、驚く答えが返ってきました。
「日本に販売しないでください。売らないでください。日本は一衣帯水の隣国です。
今こそ支援の手を差し伸べたい。そのポンプ車は日本の被災地に寄贈します」
つまり、1億5千万円もするコンクリートポンプ車を販売するのではなく、無償提供したいとの返事でした。
単に車両だけを送るのではありません。三一重工から専門の技術者3名も一緒に来日して操作方法などのレクチャーもおこなうとのことでした。
当時の様子を三一重工の日本代理店であるWWB株式会社社長は振りかえります。
「寄贈が決定し、すぐに三一重工が62mブームを持つポンプ車を探したところ、非常にラッキーなことに、たまたま上海の港に条件に合ったコンクリートポンプ車があることがわかりました。
ドイツに向けて出港目前だったのですが、ドイツ側の企業にも快諾いただき、赤十字社を通じて日本の被災地に向けて送ることになったのです。
ドイツに向かう船から降ろされたコンクリートポンプ車はすぐさま、『蘇州号』(上海~大阪)に乗せ換えて日本に向かうことになりました。
日本に到着してからは、千葉県野田市で2日間、操作方法などの訓練をおこない、その後、福島に向けて旅立ちました」
※ ※ ※
今回の取材では、かつて存在していた三一重工の日本法人「三一日本」の代表取締役(当時)川添智弘氏にもお話を詳しく伺うことができました。
「大阪から千葉~福島まで自走で移動したのですが通過ルートの状態もすべて詳細に調べる必要がありました。
道路幅や橋、トンネルなど。なんせ総重量が55トンもある車両です。私のメールには東電さんとの緊迫したやり取りが今も残っていますよ。
通過する府県の警察も全面協力してくださり、無事に福島に移動できるよう道路の一時封鎖など交通規制も一部ではおこなわれました。コンクリートポンプ車の前後には各府県のパトカーが護衛につきました。
本来ならば、日本の公道を走行するには各種の規制があり時間もかかるのですが、今回は赤十字社を通じた寄贈ということで超法規的措置によって、仮ナンバーの発行もスムースにおこなわれ、上海の港を出て千葉の訓練場所を経て福島第一原発で注水作業がおこなわれるまで約2週間という驚異的な短期間で実現しました」
東日本大震災、10年前に中国車が日本を救った? 超法規的措置で導入! 1億5000万円ポンプ車の現在 - くるまのニュース
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