古生代の魚の化石から、骨の進化における大きな転換点が明らかになった。3月31日付けで学術誌「Science Advances」に発表された論文によれば、ヒトの骨にあるのと同様な骨細胞がおよそ4億年前に発達し、いわばミネラル分の「電池」として機能していたという証拠が確認された。
ヒトなどの脊椎動物の場合、骨は主に体内の支えとなると同時に、絶えず損傷を修復して自らを維持しながら、血流に重要な栄養素を供給している。対して、ごく初期の骨は大きく異なっていた。魚の体を保護する殻の役割を果たしており、むしろコンクリートのようなものだった。骨がなぜこれほど進化を遂げたのかは大きな謎だが、初期の魚の表面にあった骨が栄養を供給していた証拠を見つけた今回の研究は、その謎の解明に光をあてるものだ。
研究対象となった化石は、オステオストラカンと呼ばれる、絶滅した無顎類の甲冑魚(かっちゅうぎょ)。「私は、親しみを込めてビートル・マーメイド(カブト人魚)と呼んでいます」と、論文の筆頭著者で、ドイツ、ベルリン自然史博物館の博士過程に在籍するヤラ・ハリディ氏は話す。
この魚は、頭部が装甲で覆われ、後部には柔軟性のある尾が伸びていた。顎はなく、骨組織が体の表面を包んでいた。脊椎動物の進化をもたらした内骨格の起源を理解する上で、系統的に重要な魚類に属している。
ハリディ氏の研究で焦点となったのは「骨細胞(こつさいぼう)」だ。これは、骨が成長する過程で硬いミネラル成分に囲まれる細胞で、ヒトの骨の大部分を占めている。しかし、骨をもつごく初期の動物には骨細胞がなく、古生物学者たちは、いつ、どのような理由で骨細胞が現れたのかという疑問を抱いてきた。
「要するに私は、なぜ骨細胞が生まれたのかという疑問で頭がいっぱいになったのです」とハリディ氏は言う。
新たな3D技術で見えた細胞の跡
古生物学者たちにとって、骨細胞の謎の解明は難題だった。ハリディ氏によれば、骨の微細な構造を研究する場合、従来は骨を薄片にスライスし、2次元のスライドにして観察していた。だがこの方法では、骨の細胞が実際にどのような姿をしているのかがわかる完全な3次元画像を入手することができない。
ハリディ氏のチームが初めて骨の構造を明らかにできたのは、材料工学などの工学的な用途のために開発された手法のおかげだった。「私は廊下で同僚のポスターを目にしたのです。電池に使われる素材のポア(細孔)の見事な画像で、まるで細胞のようでした」とハリディ氏は振り返る。
その画像の作成には、集束イオンビーム走査型電子顕微鏡法(FIB-SEM)という、詳細な3次元画像が撮影できる装置が用いられていた。ハリディ氏は、この技術はどのような物体に使用できるのかと質問したところ、乾燥した安定な物体が最適だと知った。「岩石ほど安定したものはないわ、と思わず叫びました」
そこでオステオストラカンの化石をFIB-SEMで撮影したところ、ハリディ氏の期待を超える結果が得られた。「同僚で共著者のマルクス・オーゼンバーグ氏が、最初の画像を平然とEメールで送信してきました」と彼女は語る。「私は彼に電話して、その画像がモデルではなく実際のデータなのかを確認しました。それほどすばらしい画像だったのです」
画像には遠い昔に朽ちた骨細胞の姿はないが、太古の魚類の内部に骨細胞が存在していた空洞が確かにあった。「4億年以上も前に小さな細胞が生きていた空洞を、私は目の当たりにしたのです」とハリディ氏は話す。
骨が「ミネラルの電池」に進化、4億年前の魚で証拠発見 - ナショナル ジオグラフィック日本版
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