熊本県の阿蘇カルデラで唯一の“切れ目”である立野峡谷の地質調査から、これまで明らかになっていなかった峡谷誕生の大まかな時期が判明した。熊本大の渡辺一徳名誉教授（火山地質学）らの研究グループが、カルデラ形成のきっかけとなった27万年前の巨大噴火後には「峡谷が存在していた」とする論文をまとめ、日本火山学会誌に発表した。阿蘇の火山・地震研究に一石を投じるものとなりそうだ。 【画像】カルデラと立野峡谷 阿蘇カルデラは南北約25キロ、東西約18キロに広がる。27万年前と14万年前、12万年前、9万年前の4度にわたる巨大噴火とマグマ放出による大陥没で形成されたとみられる。 立野峡谷はその西端に当たる。大地震によるカルデラ壁の一角の崩落や、カルデラ内にあった湖の決壊、浸食などによってV字形の細長い谷ができたと考えられてきたが、時期は不明だった。
峡谷内では国営立野ダム（2022年度完成予定）の建設工事が進み、その一環で溶岩流に覆われた谷底の下層のボーリング調査を実施。得られた試料などを渡辺氏らが分析したところ、27万年前の火砕流堆積層（Aso1）と、その上方にある14万年前の火砕流堆積層（Aso2）の間から、別の溶岩層「外牧（ほかまき）溶岩」も見つかった。この溶岩は誤差を含み23万～28万年前の噴出とみられる。 カルデラ壁は27万年前の大陥没で出現しており、溶岩流が壁を越えることは考えられない。今回、壁の外側でその年代に当たる溶岩が確認されたことで、当時既に峡谷の原形が存在し、溶岩が流れ下ったと考えられるという。
立野峡谷付近には、熊本地震の震源となった布田川（ふたがわ）断層帯の延長上にある北向山（きたむきやま）断層など2本の活断層が延び、約7千年前から2千年周期で地震を起こしていることが分かっている。渡辺氏によると、峡谷の形成にはこの活断層による地震が関与した可能性が高いという。 阿蘇火山を長年踏査してきた渡辺氏は「活断層の研究が進めば、地震周期の解明にもつながる。阿蘇火山と地震の歩みを、より年代をさかのぼって捉え直し、今後の防災研究に役立ててもらいたい」と話している。 （佐藤倫之）
カルデラの全体像問い直す
池辺伸一郎・阿蘇火山博物館長の話 峡谷は幾重もの分厚い溶岩流に覆われ、阿蘇火山で最大規模の噴火があった9万年前以降のことはある程度分かっていたが、それ以前については解明が進んでいなかった。この論文は、峡谷がカルデラ形成初期から存在していたことを科学的に示しており、阿蘇カルデラの成り立ちや全体像を根本から問い直す内容だ。
立野峡谷、27万年前に存在していた 熊本大グループ特定「地震研究へ一役」（西日本新聞） - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース
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