福岡県篠栗町で5歳の男児が餓死した事件で、県福岡児童相談所が事件1カ月前に家庭訪問した際、「男児が痩せている」と確認していたことが関係者への取材で分かった。児相はこれまで、当時の男児の体つきについて「捜査への影響」を理由に明らかにせず、「差し迫った危険はないと判断した」と説明していた。専門家は「痩せていれば育児放棄の疑いは強まる。踏み込んだ対応を取るべきだった」と指摘する。
起訴状によると、母親の碇（いかり）利恵被告（39）と知人の赤堀恵美子被告（48）は、三男翔士郎ちゃんに十分な食事を与えず、昨年4月18日に餓死させたとされる。
児相が家庭訪問したのは昨年3月11日。県警から「育児放棄の疑いがある」と通告があり、職員2人が自宅を訪れた。
関係者によると、翔士郎ちゃんがドアを開け「誰か来たよ」と声を発した。職員は、翔士郎ちゃんの様子を「痩せているが元気な様子」と目視。外で遊んでいた小学生の兄2人は「痩せており、長男は顔色は良く、次男の顔色は良くなかった」と確認した。赤堀被告とみられる女が応対し「母親は体調不良で起き上がれない」と説明したという。児相はこうした状況を文書で記録しているという。行政機関が翔士郎ちゃんを確認したのはこの時が最後だった。
児相は3日の記者会見で、訪問時の翔士郎ちゃんの様子について「目視して傷やあざはなく、はきはきと話した。顔色も良かった」と説明。痩せていたかについては「捜査に関わる内容」として答えなかった。
翔士郎ちゃんは、2019年9月ごろから体重が減り、同11月から幼稚園に来なくなった。母親の碇被告から詳しい話が聞けない状況が続き、児相には「男児が1人で外にいる」などと育児放棄が疑われる情報も複数寄せられていた。
元児相職員で福岡市子ども家庭支援センター長の河浦龍生さんは「厚生労働省の指標に照らせば、深刻な育児放棄が疑われる事案だ。面会して痩せていたのに、『差し迫った危険はない』という判断は理解できない。体重を測定するなど養育状況を詳しく調べるべきだった」と話す。
児相は訪問後も主体的に関わる必要はないと判断し、危険度を最も低い「C」と評価したままだった。児相は26日、西日本新聞の取材に、面会時に痩せていたかどうかは「申し上げられない」と繰り返し、「対応が適切だったかは、今後行われる第三者による検証を待ちたい」とした。 （山口新太郎、古川大二）
餓死1カ月前「痩せている」児相確認 公表はせず - 西日本新聞
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